わくわく木版画

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木版はがき:ホタルブクロ

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木版はがき「ホタルブクロ」
150円
 「温暖化」は、さしたる深い洞察もないままに最近はメディアに氾濫した格好だが、花々の様子を伺っていると、その足音がひたひたと近づいてきているのが分かる。なんといっても、まだ入梅になったばかり、しかも早目の入梅だというのにホタルブクロがもう花をつけているのである。

 紫陽花の時にも書いたことだが、しとしとと降る雨の景色の中に赤味の色が射していると、なんだかそこだけに温もりが集まっているように見える。赤といっても、この場合は真っ赤なバラといった強烈な赤でない方がいい。紫陽花の紫味を帯びた赤、赤いホタルブクロのような、ややくすみを持った淡い赤の方が雨に曇った風景の色調に調和する。

 ホタルブクロに、本当に蛍が住んでいるのかどうか、知らない。知らない振りをして、本当に住んでいるんだと信じ込んでいる方が楽しい。闇が落ちて、木々の梢がざわめく夜半、小さな明かりのみを頼りにして林の道を恐々と辿っている。そのとき、ホタルブクロの花の中で点る蛍の光が道脇のあちこちに揺らめいている。そんな風に、イメージを膨らませると、たとえ嘘でも信じる者の現実の方が楽しいものと思う。

 淡い青紫、淡い紫がかったピンク、白。ホタルブクロは大方はこの3色だが、最近は例によって品種改良が盛んだから、もっと色数もあることだろう。似たもののカンパネラは、花屋ではもっとたくさんの花色を見かけている。

 さて、このはがきはピンクのホタルブクロにしています。何版でしょうか? 最初からこの便りに目を通している人には、簡単に分かってしまうと思います。
 ①肌色に近いピンクと②紫味のピンク、それと③オリーブグリーンです。最初に①のピンクで花の下摺り。次に②のピンクで花と顎・茎・葉脈。最後が③のグリーンで顎・茎・葉を重ね摺りします。①と②の重ねのとき②の花びらの先を少し削ってぼかします。同時に花筒の角を細く彫って下から①のピンクを出し、筒の形を表現しています。小さくて簡単な作品なのですが、版で表す基本の表現法が使われています。画像が見えにくくて済みません。