わくわく木版画

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木版はがき:泰山木


木版画「泰山木」
200円

 梅雨時の晴れ間などに、電車の窓から何気なく線路際を眺めていると、突然、黒っぽい緑の葉の上に大きな白い花が咲いているのが見えて、ハッと気持ちが揺さぶられるときがある。これが泰山木(たいさんぼく)である。花も大きいが、木自体もとても大きい。従って、地面を歩いている時は、気がつかないで通り過ぎてしまうのだ。電車の中だと普段より視線が高く、町を鳥瞰することになるから、高木の泰山木の花が目につきやすくなるのである。

 JR山の手線の巣鴨駅近くに「六義園」がある。松平候の屋敷跡だが、この庭園に、大きな泰山木が確か2〜3本あった。園の解説では、中国から贈られた日本で初めての泰山木であると書いてあったように記憶する(定かでないからちゃんと知りたい人は園に出かけてみましょう。なかなかの名園です。春はしだれ桜も有名ですよ)。このはがきをデザインするとき、六義園までスケッチに行ったから、今頃花盛りなのは間違いない。

 泰山木と朴(ほう)の木の花はよく似ている。色合いや形が同じ花のように見える。しかし、慣れてくると泰山木の方が全体に肉厚で葉がゴワゴワと硬く濃く、朴は薄手で葉もしなやかで葉の色も黄緑色をしているのですぐに区別がつくようになる。

 朴も高木で、しかも山野の木だから、普段目にする機会は少ない。しかし、やはりこの時期の行楽でロープウェイを利用したりすると、眼下の緑一色の山肌のところどころに、そこだけにスポットを当てたように白く輝く朴の花を目にすることが出来る。花の中心の、いわゆるおしべ・めしべの部分がツンと特徴的に突き出ていて、愛嬌がある。

 このはがきはちょっと凝りました。6版です。白い花の陰影をどう処理するか悩みましたがあまり淡くせず、代わりに葉の色を淡く表現しました。はがきのデザインなのであまり濃い色にならないようにしたのです。
 花の陰影に使った淡黄・ピンクを葉っぱの色合いの変化に利用して重ねてあります。葉の黒っぽい緑は板ぼかしでエッジを斜めに彫り、せっせとサンドペーパーをかけて滑らかなスロープにして、柔らかな雰囲気を作りました。

 木版画は、彫りの工夫、摺りのさまざまなテクニック、その両方の技法を駆使して表現を深めていくのです。