わくわく木版画

木版画入門教室やっています。https://iihanga.com/

絵の具の濃度で同じ図柄でもイメージは異なる

水辺の風景=睡蓮池とトンボ  生徒作品:T.S

★東西の木版画

昔ながらの日本の木版画の魅力は、水性絵の具を使った色であること、そして、和紙に摺ることによって得られる効果が最も大きい。そのことによって、必然的に西洋の木版画とは趣を異にする作品が生まれてくる。

 

日本の木版画の独特の柔らかい調子は、この二つの特性があって生まれている。

・水性絵の具と油性絵の具

・パルプをコーティング剤で固めた洋紙と、細かな繊維の絡みを漉きあげて膠でにじみ

 防止加工をした和紙

この2種類の素材の違いゆえに、制作技法さえも自ずと異なってくるのである。

 

油性インクをゴムローラーで版面に広げるとき、インキは版面のみにしか付かない。

だから形さえきちんと彫れていれば、凹みの処理が少しいい加減でも、まったく影響はない。

 

しかし、刷毛を使って水性の絵の具を版面に広げるとなると、絵の具は版面のみならず、凹みの部分にも付いてくる。しかも、形の際の彫り方が垂直的で深すぎると、刷毛が通るときに、ぶつかってしまい、刷毛の中の絵の具がこそぎ落とされて、そこに絵の具の溜まりを生み出してしまう。

 

 

★凹みの彫り方

それを防止するために、凹み部分を滑らかな斜面状に彫る技術が必要になる。版木では、図柄の形の面以外の部分は「浚い部分」として凹みに彫らなければならない。浚い部分の面積が広いときには、湿した和紙が、自分の重みで垂れやすくなる。浚いが浅かったり平らだったりすると、垂れた和紙が浚いの底にくっついて汚れを出す。

 

この汚れを「ケツ落ち」と呼びます。

 

「ケツ落ち」を出さないためには、浚いの面の中心部分に向かってお皿状に中心部分が深くなるように滑らかに彫っておかなければならない。この皿状に深くするというのが初心者にはイメージしにくいようで、どうしても断崖状に深く彫りすぎたり平らに彫ってしまうことになる。

 

 

★色の濃度の違い

色の使い方には人の好みがあって、水っぽくサラリと透明感のある色使いが好きな人や、絵の具を濃い目にして不透明な感じの色合いを好む人もある。上にあげたT.Sさんの「睡蓮池」の作品は後者である。しかも、濃い目のグレー調で色が統一されていて、ちょっと重い感じの作風である。

 

同じような題材をモチーフにしても、人それぞれの感性で色調が違ってくるので、感覚的には随分異なった感じの作品ができあがる。

 

木版画の場合は、そうした個々の感性を少し強調したほうが、作品自体が面白くなると思っている。一番つまらないのは、用心しいしい上手そうに作る作品である。ただ、小綺麗に作ろうとしたものは、弱々しく、基本的に版画の特性であるインパクトに欠ける。だから、なんの味わいも感じられないのだ。

 

 

少し意図的に下手を押し出すくらいが、木版画の特性であるインパクトが生まれてきて、人の興味を引くことになる。