わくわく木版画

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木版はがき:蚊取り線香

木版はがき「蚊取り線香」   ホーム頁 http://kobo-yuu.kir.jp
150円

 暖冬の影響も大きいのだろうが、私の住む大都会の中心部でさえ、近年は冬の蚊を目撃することがある。しかも、通常1〜2階の高さまでしか飛来しないと言われている生物なのに、5階や10階で飛んでいることもある。階段を伝って住み着きながら数年かかって上階に到達し、住み着くそうだ。生命は強靭な適応能力を持っているものだ。カラスたちが都会のコンクリートジャングルを言葉どおりに巨大な森林に見立てているように、蚊も都会を一種の野生の塊と考えているのかもしれない。

 梅雨時の雨の知らせと共に、蚊の来襲が始まるのが普通だったが、今年は4月の半ばにあの特有のブーンという羽音で目覚めたことがある。5階だからやはり適応力の強い冬の残り蚊だったのに違いない。ブンブンというより、ブゥゥンという弱弱しそうな羽音だったから、残り蚊が温かくなって動き出したばかりだったのだろう。2,3日悩まされたが、それっきり姿を見せなくなった。すでに梅雨に入ったが、ありがたいことに後続軍はまだ出現ししていない。

 蚊は厄介な生き物ではあるが、彼を退治する蚊取り線香のある風景は、夏の情緒を想起させるよいモチーフでもある。それにしても、あの豚さんの蚊遣りは誰が考えたものであろうか。とても奇異な取り合わせなのに、広く受け入れられていることもよく考えてみると不思議である。あれは言ってみれば「ミシンとこうもり傘の出会い」と同じくらいシュールな発想かもしれません。

 このはがき、一色ずつ摺るだけの作業ですが、最初の赤はバレンを使わず、ポンポンと手で叩き摺りします。はがきは裏表貼り合わせの和紙ですが、絵柄面は長繊維のいかにも手漉き和紙風の手触りの紙を使ってありますのでシンプルなデザインながら、趣のある風合いが出ています。なんといっても線香は煙が主役でしょうから、柔らかなムラサキの色を選びました。